色とりどりの花火

コラム

花火の"色"はどうやって作る?元素と炎色反応から読み解く花火の科学

「なぜ花火は色とりどりなのか?」——実は江戸時代の花火は"無色"だった

夏の夜空に咲く花火の赤、黄、緑、青。私たちはそれをごく当たり前の風景として眺めているが、実はカラフルな花火が日本に登場したのは、わずか130年ほど前のことだ。

江戸時代の浮世絵に描かれた花火をよく見ると、玉屋や鍵屋に代表される江戸の花火は、光だけのものだった。色はついていなかったのだ。当時の花火は、硝石・硫黄・木炭を混ぜ合わせた黒色火薬が主流で、色は赤橙色しかなかった。ちょうど線香花火や手筒花火のような色合いだった。

それが一変したのは明治維新を迎え、花火に色をつけることができる化学薬品が海外からもたらされてからのこと。初めてフルカラーの花火が公に打ち上げられたのは、明治22年(1889年)2月11日、大日本帝国憲法発布の祝賀行事で、皇居の二重橋から打ち上げられた。

わずか100年余りで、花火はモノクロから7色以上のフルカラーへと進化した。その変革を可能にした科学の仕組みが、「炎色反応(えんしょくはんのう)」である。


炎色反応とは何か——電子が光を「放出」する瞬間

炎色反応を理解するには、原子の内部でなにが起きているかを知る必要がある。

金属は原子の集まりで、原子は中心にある原子核とその周りを回っている電子でできている。原子核の周りには「電子殻」という電子の存在する層が複数あり、内側からK殻、L殻、M殻と続く。それぞれの殻にはさらに電子軌道があり、電子はそれぞれの軌道に分かれて存在している。

では、燃焼が始まると何が起こるのか。金属イオンに熱を加えると、電子は熱のエネルギーを吸収し、外側の軌道に移る。これは「励起状態」と呼ばれる不安定な状態だ。電子はすぐに元の安定した状態(基底状態)に戻ろうとし、内側の軌道に戻る。その際に電子が元々吸収した熱エネルギーを光として放出することで、炎色反応が起こる。

ここが最も重要なポイントだ。この不安定な状態と安定な状態のエネルギー差が原子によって異なるため、炎色反応で出る色も原子によって異なってくる。つまり花火の色は、「元素固有の電子の動きが光の波長として現れたもの」なのだ。赤は赤、黄は黄——それは偶然ではなく、元素の構造に刻まれた必然の現象である。

また、炎色反応が見られる元素は限られている。発光する電磁波が赤外線や紫外線ではなく可視光である場合のみ、色のついた炎を見ることができるからだ。すべての元素が炎色反応を起こすわけではない。花火に使われる金属が限られているのは、まさにこの理由による。


元素と色の対応表——花火師が操る「光の周期表」

現代の花火師が使う炎色反応の主な元素とその発色は以下の通りだ。これを知っているだけで、花火大会の見方が根本から変わる。

元素名 元素記号 発色 身近な例
ストロンチウム Sr 深紅・紅色 非常鉄道の非常灯など
リチウム Li 赤色 スマートフォンの電池
カルシウム Ca 橙色 卵の殻・骨
ナトリウム Na 黄色 食塩(塩化ナトリウム)
バリウム Ba 黄緑色 胃のバリウム検査
Cu 青緑色 10円硬貨・電線
カリウム K 紫色 バナナ・野菜

花火に使うのは、深い赤の紅色を出すストロンチウム、青緑の銅、黄のナトリウム、黄緑のバリウムの4種類が主軸だ。値段が安くて手に入れやすいためで、この4種類の金属をうまく組み合わせることでさまざまな色を出している。ピンクや水色だって作れる。

興味深いのは、私たちが「炎といえばオレンジ色」と思い込んでいるのも、炎色反応によるものだという事実だ。ろうそくやたき火や灯油ストーブや不完全燃焼のガスレンジはどれもこれもオレンジの炎を発するが、あの炎の中では炭素原子や炭素原子を含む分子がばらばらと舞い上がっていて、そのうち炭素原子が3個連なったC3という分子があのオレンジを演出している。身近な炎はほとんどが炭素の燃焼で作られるので、私たちにとって炭素の炎色反応が「炎の色」になっているのだ。


花火玉の内側——「星」と呼ばれる小宇宙

炎色反応の知識を花火に応用するための具体的な仕組みを見ていこう。

花火玉の中には複数の小さな球が入っており、これを「星」と呼ぶ。この星は火薬に金属を混ぜて固めたもので、星に配合する金属の種類によって炎色反応を起こし、花火の色が変わる。

職人が「星」と呼ぶことに、日本の美意識が宿っているように感じられる。夜空で輝く無数の光点に、星の名を与えた花火師の感性は、単なる爆薬技術の話を芸術の領域へと引き上げる。

では、色が変化する花火はどうやって作るのか。星の中心部には芯があり、例えば芯の周囲に赤色に輝く火薬をつけて、その周囲に青色、さらに黄色の火薬をつける。星は外側から燃えるため、黄色→青色→赤色に変化する打ち上げ花火となる。

これは実に精巧な仕掛けだ。花火師は爆発の瞬間を設計するのではなく、燃焼が「どの層から始まり、どの層で終わるか」という時間軸を星の内部構造で設計しているのである。タマネギの層のように異なる元素を重ねることで、一発の花火に物語を込めるのだ。


なぜ「青い花火」は最も難しいのか

花火師の間で、青色の花火は特別な存在として知られている。技術的難易度が他の色と段違いに高いからだ。

青色の発色には銅(Cu)化合物が使われるが、青色を得るためにはCuCl(塩化銅)を形成させる必要があり、炎色反応による青色光を得るにはより多くの分子を熱で励起させる必要がある。しかし1200℃以上だとCuClが分解してしまうため、温度制御が非常に重要となってくる。

さらに追い打ちをかける問題がある。夜空は真っ暗なように見えても実はまだかなり青いため、青い花火を夜空に打ち上げると、にじんで見えてしまう。赤や黄色は夜空の暗黒に対してくっきり映えるが、青は背景と溶け合ってしまいやすい。

青色の光は波長が短く、夜空に対して目立ちにくい。他の色、特に赤色や黄色などは波長が長く、夜空の黒に対して鮮やかに見えやすい。これは光の物理法則による制約であり、どれほど熟練した花火師であっても逃れられない壁だ。

あのアメリカの花火研究者は、鮮やかで濃い青色の花火にたどり着くために20通りもの製法を編み出さなくてはならなかったという。それほど青は難しい。花火大会で美しい青色が打ち上がった瞬間、それは単なる感動ではなく、化学と職人技の極限が実現した瞬間だと理解していただきたい。


「色火剤」——花火師だけが知る調合の秘術

実際の花火製造では、金属元素をそのまま混ぜるだけでは鮮やかな色は出ない。花火は炎色反応を利用した技術で、金属化合物の種類や燃焼温度等を変えることによって多様な色彩を生み出している。色の着いた炎を出す花火の薬剤を「色火剤(いろひざい)」という。色火剤の主な成分は、金属化合物からつくられる「炎色剤」、金属化合物に酸素を提供する「酸化剤」、燃焼を助ける「可燃剤」の3つである。

主要な色と使われる炎色剤の対応はこうなっている。

  • 赤色:硝酸ストロンチウム、シュウ酸ストロンチウムなど
  • 黄色:硝酸ナトリウム
  • 緑色:硝酸バリウム、硫酸バリウム、シュウ酸バリウムなど
  • 青色:酸化銅、銅粉、硫酸銅、塩基性炭酸銅など
  • 白色:マグネシウム、アルミニウム
  • 紫色:炭酸ストロンチウム+酸化銅(赤と青の混合)

なお、花火の場合、ナトリウム(Na)のように原子発光の色もあれば、燃焼中に反応生成したSrCl(深紅色)、SrOH(ピンク色)、BaCl(緑色)、CuCl(青色)など分子発光の色もある。つまり花火の発色は単純な炎色反応だけでなく、燃焼中に生成される化合物の発光も複雑に絡み合っている。元素の単体というより、燃焼の「化学反応そのもの」が色を生み出している側面もあるわけだ。


炎色反応と科学史——元素発見の立役者でもある

炎色反応は花火だけの話ではない。科学史において、炎色反応は新元素発見の強力なツールとしても機能してきた。

1860年、ドイツのブンゼンとキルヒホッフは炎色反応と分光器を使って、新元素セシウムを発見した。未知の元素を含んだ試料を炎に入れ、その光をプリズムで分けて望遠鏡で観察すると、知られている元素とは違う波長の光(輝線スペクトル)が見つかったのだ。

そう考えると、花火の色を眺めることは、元素周期表の成り立ちに触れることでもある。私たちが「きれい」と感じる色の正体は、原子の個性が光として現れた「元素の自己紹介」なのだ。


花火師の職人技——科学を美に変える経験と感覚

炎色反応の仕組みを理解した上で改めて問いたい。なぜ同じ元素を使っても、花火師によって仕上がりが違うのか。

理由のひとつは燃焼温度の管理だ。花火師が大切にしていることはいくつかあるが、その中でも特に重要なのは安全性と芸術性だ。花火が爆発した時の色やその変化だけではなく、残像までイメージし、星を詰めている。さらに、花火が最も高く打ち上がるタイミングで爆発するように、花火が打ち上がるスピードから火薬の量を細かく計算している。花火が上がりながら、もしくは落ちながら爆発してしまうと、きれいな円を描けない。

元素の組み合わせは「楽譜」に過ぎない。それを夜空で実際に鳴らすには、燃焼速度・温度・タイミング・空気中の湿度まで読む経験と感覚が必要だ。化学の知識と職人の直感が合わさって初めて、観客の記憶に残る一発が生まれる。


「和火」という逆説——色を捨てた美学

最後に、少し逆説的な視点を紹介したい。

明治時代以降には輸入された薬剤や金属化合物を組み合わせた、カラフルな花火「洋火」が主流となった。洋火の隆盛によって一度は姿を消したかに見えた「和火」だが、21世紀を迎える目前に復活を遂げた。江戸開府400年にあたる2003年ごろからリバイバルブームが訪れ、現在ではすっかり定着し、数多くの大会で和火が打ち上げられ、江戸時代から続く伝統の光と技術を今に伝えている。

科学が進歩し、発色の技術が極まった現代に、あえて「色なし」の火薬に戻る動きがあるのは興味深い。炎色反応を使えば使うほど、人は単一の炎の美しさに飢えるのかもしれない。元素の多彩さを知った上で、あえてひとつの色の深みに向かう——それもまた、花火師の美学である。


まとめ——花火の色は「元素の言葉」

花火の色は、偶然でも染料でもなく、元素が持つ固有の「声」だ。熱エネルギーを吸収し、光として放出する電子の動きが、人間の目に色として届く。ストロンチウムが赤く叫び、ナトリウムが黄色く語り、銅が青く囁く——それが花火の正体だ。

次の花火大会では、夜空を見上げながらこう思ってみてほしい。あの赤い光の中には、元素周期表の「Sr(ストロンチウム)」がある。あの青の向こうには、10円硬貨と同じ「Cu(銅)」が燃えている、と。

科学を知ることは、感動を奪うのではなく、感動に深みを与えてくれる。炎色反応という窓を通じて、花火は単なる夏の娯楽を超えた、元素の詩になる。

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